皆さま、ご機嫌麗しゅうございますか?
タイの代表的な工芸品と言えば、‘タイシルク’をあげられる方も多いのではないかしら?
その中でも、デザインや図柄で、外国人からもダントツの人気をはかるブランドは、そう、‘Jim Thompson’(ジムトンプソン)よね。
ホム マリも大好きで、愛用させて頂いているわ。
その‘Jim Thompson’(ジムトンプソン)の設立者でアメリカ人のジムトンプソンは、第二次世界大戦中からタイのバンコクに住み、戦後はタイの手工業であったタイシルクを一大産業にまで育て、タイシルクの素晴らしさを世界中に広めた人物と言えるわね。
まさに、‘シルク王’と呼ばれていたそうよ。
ところが、ジムトンプソンは、マレーシアで休暇を過ごしている途中、ジャングルで行方不明となり、その後の消息は絶ったままとなってしまった方なのよ。
今日は、そんな実際に起こったミステリーをもとに描かれた「熱い絹」(松本清張作、講談社文庫)のお話。(物語の内容にも触れるので、ご了承くださいね。)
実話がベースでも日本の推理小説
この「熱い絹」は、今もお話したとおり、マレーシアで起こった実話がベースになっていて、その舞台の地名や登場人物は、現存のものと被るところが多いわね。
ジムトンプソンは、ジェームス・ウイルバーとして、姉のキャサリーン・ウッドは、物語中は妹のフランシス・ウイルバー、そして、キャサリーンが実際に飼っていた犬2匹も「熱い絹」の中でその妹が飼う犬として登場し、犯人を推察するための重要な役割りを果たしているわね。
でも、そういった単なる‘名前の入れ替え’だけだと、アガサクリスティーなどの外国人作家による‘外国のお話’と変わらない感じで終わってしまうのだけれど、さすが松本清張さんね。
先述のフランシス・ウイルバーの殺害場所が軽井沢であったり、マレー半島と戦中の日本との関係を巧みに物語に取り入れられて、きっちり‘日本の推理小説’として成立させていらっしゃるのよ。
このマレー半島と戦中の日本との関係は、「熱い絹」の物語の中では、キーになるもので、原住のサカイ族の一員となった下沢平造の存在は、今の若い方々には突拍子もない設定に思われるかもしれないけれど、事実70年代までは、東南アジアのジャングルの中で生存されていた日本兵が帰国されるということもあったそうよ。
だから、特にこの作品が世に出た当時においては、リアリティーに富んだ推理小説として受け入れられたのではないかしら。
「熱い絹」とJim Thompson
この「熱い絹」では、登場人物の共通の趣味・趣向として、マレーシアの奥地に住む蝶や植物、そしてタイやカンボジアの古美術が話題となり、描写されているわね。このことは、実在の方々にも当てはまっていたことで、ジムトンプソンのコレクションは、現在、バンコクにある‘ジムトンプソンの家’でも見学できるし、美しいポートレートは、Jim Thompsonの商品の多くに取り入れられているわ。
なので、是非、「熱い絹」をJim Thompsonでお買い物なさる前に、または‘ジムトンプソンの家’を訪れる前にお読みになることをお薦めするわ。
そうすることで、ジムトンプソンが、ひょっとすると自らの命を懸けて追い求めた‘美しさ’が分かる気がすると思うの。彼の死は、今もなおミステリーだけれどね。
「熱い絹」は、上下巻にまたがる大作だけれど、繰り返し述べられていることも多く、読みだしたら一気に読めてしまうわ。
だから、次回のタイは、ジムトンプソンの失踪ミステリーをお供として旅なさるのも趣があると思うわよ。
それでは、皆さま、チョクディーカ。