皆さま、ご機嫌麗しゅうございますか?
日本人作家が描く、タイを舞台にした小説は、時々お目にかかるけれど、タイ人作家による作品で、日本のこと、日本人のことを題材にした小説って、なかなか出会えないと思うの。
そんな中、貴重な一冊といえて、タイ人の間ではとても有名なラブストーリー、「メナムの残照」原題はクーカム(トムヤンティ作、西野順治郎 訳、角川文庫)のお話。
内容に触れるところもあるので、ご了承くださいね
日本では絶版の文庫本
「メナムの残照」という小説、タイのことを少しご存知の方なら、タイトルだけは耳にされたことがあるのではないかしら?
ホム マリも、バンコクに在住中に、タイ人作家による日本人とタイ人が主役の恋愛小説だということを知ったのだけれど、その当時は、まぁいつでも読めるでしょ?という思いもあって、読んでいなかったの。
でも、帰国して数年たち、そういえば「メナムの残照」を読んでみたいわ!と本を探し出して驚いたの。
なんと、日本では絶版になっていて、現在は、紀伊國屋書店さんがアジア地区の店舗限定で復刻させている文庫本シリーズとして販売されているのよ。
もちろん、古本などを手に入れることはできるけれど、大好きなタイに関する本だし、新品が欲しいわ!と思って、バンコクを訪れた際、バンコクの紀伊國屋書店さんで購入してきたの。
本の最後に出ている発行年を見てみると、初版が昭和53年で、ホン マリが入手したものは、平成27年10月の第6版。このときの出版分が無くなってしまうと、アジア地区の店舗でも手に入りにくくなる可能性はあるのではないかしらね。
先日、バンコクの伊勢丹が閉店したとニュースになっていたけれど、ホム マリとしては、バンコクの他の紀伊國屋書店さんのお店で、和書の取り扱いの継続を願うばかりだわ!
タイ人に愛され続けるストーリー
「メナムの残照」、タイ語での原題はクーカム(訳者によると‘運命の相手’)というのだけれど、タイ人に‘クーカム’といって、知らない方はいらっしゃらないのではないかしらね。
映画化やドラマ化も何回もされているし、主人公で日本軍大尉の小堀(コボリ)というお名前が、タイ人にとって最も馴染みのある日本人の名前のひとつでもあるのよ。
あらすじとしては、戦時中、日タイ同盟条約のもと、タイのバンコクに進駐し、メナム河(現在はチャオプラヤ川の方がピンとくるわね)沿いの造船所の所長である小堀と、造船所近くの果樹園に住むタイ人女性、アンスマリンの恋愛物語。
小堀は、何があってもアンスマリンを終始変わらぬ心で思い続け、この様に作者が描いた‘不器用だけれど誠実で、裏切らない’日本人像は、多くのタイ人の日本人に対するイメージの礎になっていると言えるのではないかしら。
一方のアンスマリンは、複雑な立場にあり、徐々に小堀に惹かれて行くのだけれど、小堀に対する態度は、素っ気なく冷たくなってしまうのね。
きっと、アンスマリンは、自分が置かれている立場のこと以上に、将来、それは近く訪れることなのかずっと先になるのかは分からないにしても、必ず直面するであろう小堀との離別があることを悟って、好きだけれど好きにならないように努力しているようにも思えたわ。
でも、空襲の直撃を受けた小堀を探しだし、彼の最期の時にようやく素直な言葉をかけることができたアンスマリン。
きっと、ホム マリ以上に、タイ人はこの彼女の思いを理解できるのでしょうから、切なすぎるラブストーリーであることに間違いないわね。
訳者もあとがきに書いていらっしゃるけれど、小堀は日本そのもので、アンスマリンはタイであると。
タイはよく、微笑みの国と呼ばれて、一義的にはそのとおりなのだけれど、ホム マリが感じるに、とても柔軟性があるというか、したたかな一面があるのも事実。
このしたたかさがあったからこそ、タイは、植民地支配されることなく、独立を保ち続けられたといっても過言ではないわ。
そんなタイ、アンスマリンに本当の気持ちを、臨終の淵ではあっても、掛けてもらえた日本の小堀。
今までの努力や辛い思いが、一気に安堵と幸せに変わり旅立って行ったに違いないと、日本人として確信したわ。
「メナムの残照」を通して、タイ人の本質的なところを感じ取るのはもちろんのこと、日本人の姿を客観的に見つめることができるのではないかと思うの。
確かに手に入りにくい本ではあるけれど、機会があれば是非、読んでみて頂きたいわ!
それでは、皆さま、チョクディーカ。